第三章 旅行には出たけれど

 ロングシート車の過ごし方
 ロングシートとは、側窓を背にして座るシート配置のことです。『長椅子』と呼ばれ、通勤形電車によく使われています。座席への出入りに時間がかからないので、乗り降りがスムーズに出来てとても便利なのですが、何しろ7〜8人が一同に並んで、窓を背にして座る代物ですからね。1人分のスペースが狭く、景色も見えにくいので、長距離の利用には難があります。まぁ、足を伸ばせるという点では優れているのですが(そんな理由で、昔、客車のサイズがまだ小さかった頃は、一等車と二等車にロングシートが使われていました)、通路に足を投げ出すなんてお行儀が悪いですね。ロングシート車の車内は、すいていれば広々としていて開放的ですが、実際はすいていないことが多いです。
 しかも現在は、近郊形にもオールロングシート車が増えていますから、遭遇する確率や乗車時間も、それに比例して伸びています。特にJR東日本の東北地方の普通電車はほとんどロングシート車です。
 そんなわけで、特に青春18きっぷを使っての旅行の場合、ロングシート車での過ごし方も考えておかなければなりません。
 まず、景色を堪能したい場合ですが、空席が目立つ車内であれば、座ったままでも充分景色を楽しめるでしょう。時々ドア付近に行って眺めるくらいの余裕もあります。しかし問題は、混雑している時です。混雑していれば、あなたの前にも人は立つでしょう。そうなればもちろん、景色は見えません。かといって後ろを見るのも、首や肩に負担がかかるだけで、ろくに景色は見れません。ですから、混雑が予想できる時はドア付近に立ちましょう。乗車時間が長い時は、体力勝負です(混雑はそんなに長くは続かないと思いますが)。
 外が真っ暗だったり、もう何度も通っていて景色を見る必要のない時は、休憩コーナーのかわりにしちゃいましょう。ロングシートって意外にも、眠るには快適なんですよ。でもくれぐれも、シートの上に横になったり、通路に足を投げ出したりしないように。投げ出した足を蹴られても、文句は言えませんよ。

 ロングシート車で駅弁などを食べることを躊躇(ちゅうちょ)する人もいるようですが、空席がやや目立つ程度の乗車率なら、別に食べることを躊躇する必要はないと思います。もし「車内で食事をするなんて、はしたない」などと言われたら、「近郊形電車だし、長距離乗るからいいんだ」と言って、反論しましょう(私個人の意見としては、特急列車の車内であっても、食堂車やビュッフェ車、個室以外で食事をするのは、いただけないと思いますが)。
 もちろん食べた後のゴミは、ゴミ箱に捨てるか持ち帰るかして、車内をきれいに保つようにして下さい。


 ボックスシート車の過ごし方
 ロングシート車や転換クロスシート車が増えたとは言え、近郊形電車や急行形電車と言えばやっぱりボックスシートでしょう。ボックスシートとは、クロスシート(側窓に対して、右向き、又は左向きに座るシート配置。俗称『横型座席』)のうち、2人ずつが向かい合って座るものを言います。最近はワンマン化対応などで、1人ずつが向かい合う『お見合いタイプ』も登場していますが、主流はやはり2人ずつが向かい合う4人掛けです。
 国鉄からの継承車がまだまだたくさん走っているので、青春18きっぷを使っての旅行では、おそらくかなりの時間をこの座席で過ごすことになるでしょう。では、どうやって過ごせば快適になるでしょうか。
 ボックスシートに1人だけなら、それはもう天国です。手足を自由に伸ばせますからね。ですが、やはり複数の人と同席した時には、工夫と配慮が必要でしょう。例えば、目の前の席があいていても、足は乗せない方がいい。他人の足って、けっこう鬱陶しい(うっとうしい)ものなんですよ。ですから足を乗せていると、確実に鬱陶しがられます。次に、1ボックスに4人が座った場合、つまり満杯の状態ですね。こんな時は、背筋を伸ばして足を引き、きちんと座った方が快適です。
 2人で座っているときは、少々狭いかも知れませんが、予め窓側に詰めて座っておくと、後から来た人が精神的に座りやすくなります(目の前で詰めてもらったり、自分で奥に入る必要がなくなるから)。

 ボックスシートは、背もたれ(『背ずり』と言います)が座面に対して直角になっていることから、『直角シート』とも呼ばれます。一見快適ではなさそうに見えますが、わずかな工夫で快適になります(少なくとも、飛行機のエコノミーシートよりは快適になると思います)。皆さんもボックスシートに座ったなら、ぜひ快適な過ごし方を考えてみましょう。


 冒険者は眠れない
 夜行列車、特に座席の夜行列車に乗ったときによくあることです。ムーンライトシリーズの夜行快速に何度もお世話になっている人なら、一回くらいは経験しているでしょう。夜通し目が冴えていて、でも次の日にはどっと睡魔が来て。それはもう大変なんですね。ですからそうならないためにも、何らかの対策を考えておかなければなりません。
 対策を考える前に、なぜ座席の夜行列車では眠れないのかを考えてみましょう。まず皆さんが考えるのは、座っているから眠れない、ということではないでしょうか。ですが、座っている姿勢で熟睡している人もいるわけでして、座っていること自体は原因にはなりません。
 で、原因ですが、1つは昼間の列車で長時間眠ったことによる生活リズムの乱れが考えられます。次に、夜行列車そのものに対する興奮が考えられます(この興奮は、何も座席車に限ったことではありませんが)。そして最後には、車内の環境が眠るのに適していない、ということが考えられます。
 ではなぜ、昼の列車で寝てしまうのでしょうか。これには、おそらく普段の生活リズムが関係しているのではないかと考えられます。睡眠時間が短かったり、夜遅く寝たりすると、昼間に眠くなることがあるでしょう。原因はそれと同じです。
 そこで適度な昼寝をするとたいてい眠気は解消するのですが、昼寝時間が長すぎると、今度は夜眠れなくなってしまいます。つまり、それと同じことが旅行中にも起きて、夜行列車で眠れなくなってしまうのです。
 
 夜行列車に対する興奮ではどうでしょうか。夜行列車に対する興奮には2種類あります。乗り慣れない車輌や運転形態への好奇心と、翌日の行程に対する興奮です。この原因は明らかです。ずばり、場数を踏んでいないから。要は慣れでして、たくさん夜行列車を利用するうちに、興奮は収まってくるでしょう。でもいくら熟練していても、気の合う仲間ができてしまうと、ロビーで朝までおしゃべり、なんて事もあるんですよね。

 最後に車内環境ですが、これは車掌に文句を言っても、車内のムードが険悪になるだけで何にもなりません。冷暖房の温度調節や、夜中に騒いでいる乗客への注意なら快くやってもらえますが、車輌の特性や癖によるものは、車掌だけでは改善できません(室内灯減光装置の取りつけや車輌の足まわりの調整などは、車両基地じゃないと無理でしょう)。それなのにクレームを出しまくって車掌を困らせる人が時々いますが、そういうことは乗客が守るべきマナーに反していますからね。やめましょう。
 とにかく、自分で工夫する努力をしましょう。例えば、ほとんどの夜行列車では夜中に減光(客室内の明かりが暗くなる)されますが、それでもまぶしいと言うなら、アイマスクを使いましょう(ただし、アイマスクを使うと隙が増えるので、貴重品の管理にはくれぐれもご注意を)。冷房で冷えるのなら、タオルなどを体にかけて寝ましょう。車内放送も夜中は行われませんが、ホーム上の構内アナウンスがうるさいこともあり、耳栓を用意して行く人もいます。

 そう言えば、隣の座席があいているときに、横になって通路側の肘置きを枕にして寝ている人をよく見かけます。一見快適そうですが、体格によっては肩が凝ります。また通路に頭がはみ出すので、通行の邪魔になり、通行人と接触してトラブルの原因にもなりかねません。くれぐれもご注意を。

 そして最後に、自由席のある夜行快速列車は、全車指定席車の夜行快速や寝台急行、寝台特急よりも治安が悪いということを念頭に置かなければなりません。自由席車は定期券でも利用できるので、終電の役目もします。ですから居酒屋梯子帰りの人たち(要するに酔っぱらいですね)も乗ってきます。それどころか、窃盗団も乗ってくることがあるそうです(何しろ乗車券だけでいいのですから、元手が少なくて済みます)。私が以前遭遇したところでは、臨時大垣夜行の9375M(現在のムーンライトながら91号の前身。全車自由席)が多摩川の鉄橋を渡り終えたあたりで、酔っぱらいが車端のボックスに座っていた旅行客に絡んできて、あわや殴り合い……というのがありました。指定席車と自由席車は通り抜けが出来るので、指定席車に乗っていても気をつけたいものです。
 窃盗団の手口といえば、スリと置き引き。このどちらにも対処できるように、「貴重品は必ず身につけて休むように」と車内放送で何度も注意を呼びかけています。ですから、貴重品(現金、キャッシュカード、乗車券類、パスポート、貴金属、有価証券類)は荷物の中に入れないようにしましょう。座っているときは、ズボンの後ろのポケットに入れておけば、まぁ安全です。ウエストポーチに入れておくのも手です(ウエストポーチは必ず身につけて寝るように!)。



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